ここ2ヶ月程、体調を壊し休養していた間、最大のニュースと言えば、何と言ってもAVID ProTools9の登場でしょう。

ProTools9

ProTools9からはProTools HD以外では専用のハードを用いずとも動作可能になったという点が最もエポックメイキングな出来事ではないでしょうか。

AVID純正のLEインターフェイスであるMbox、003、Eleven RackだけでなくWindows上のASIOドライバー、MacのCoreAudioに対応したオーディオインターフェイスであればProTools Softwareが起動するというのは「専用ハード上のみで動作」というクローズドな戦略を展開してきたDigidesign時代から見ても大きな方向性の転換と言えるでしょう。

また、ユーザーサイドから見てもスタジオ業界標準となっているProTools HDとセッション互換性を保てるというのはかなり大きなメリットであることには違いなく、そこへAVIDが打って出たと考えるのが妥当ではないでしょうか。

では、使う側の視点に立って各バージョンを見ていきたいと思います。

ProTools Sofware 機能比較

従来のようにHDとそれ以外という括りだけでなく、AVID純正のオーディオエンジンであるDAE以外を使う場合にも機能制限が加えられていることが、この表から読み解けます。ProTools9がお披露目となったAESの会場を訪ねた方とtwitterを通してリアルタイムでやり取りをしていたのですが、その方はYAMAHAの卓をメインで使うPAのエンジニアさん。YAMAHA製品との連携を前提にProToolsがASIOドライバーに対応されたことに期待されていたようですが、ASIO/CoreAudio対応では32chまで※という機能制限に落胆された様子でした。

32chを超える同時録音トラック数が必要となるユーザーの殆どはプロユーザーでしょう。しかし、用途がその範囲内に収まるのであれば現在使用しているASIO / CoreAudio対応インターフェイスのホストDAWとしてProToolsを導入してみるのも良い選択でしょう。殊、AVID純正のDAEを使用する場合においてはこの制限は適用されず、Complete Production Toolkit 2を導入すれば
ProTools HD 9同等の同時再生能力を機能拡張することも可能です。

さてProTools HDに目を向けると10月にアナウンスされたProTools HD Nativeに注目しないわけにはいかないでしょう。
cw_320x240_PTHDnative

録音作業時に演奏者へ返すモニターのレイテンシー、ミキシングの際、複数トラックをバスにまとめ、そこにリバーブプラグインをインサートする場合などにはオーディオプロセッシング用の専用DSPを搭載するProTools HDが圧倒的に優位となりますが、映像に関わる音声の編集を行うポストプロダクションの業務などではこうした機能は特に重視されないケースが多いかと思われます。また、MA業務で活躍するレストレイション系のプラグイン類はネイティブ・プラグインが大半を占めます。こういった点からもHD Nativeの立ち位置が見えてくるのではないでしょうか。

では真打ちのProTools HDの優位性が薄れてくるかと言えばさにあらず。ミキサーを含めて専用DSPで動作することは音楽制作業務において圧倒的に優位な点であることに変わりはありません。

ProTools_HD3

さらにProTools HD 9の発表に先立って発売されたHEATはミキサー自体が専用DSP上で動作することをフルに生かしたもの。SSLNeveに代表されるアナログ・オーディオの名機をシミュレートしたものは
プラグインレベルで存在しましたが、HEATはミキサーごとプラグイン化してしまったと言っても過言ではない製品です。ただ、動作にはAVIDのライブサウンド用コンソールであるVENUE同様、大量のDSPのリソースが一度に消費されます。既にHEATの評価は各方面で高く評価されていますが、DSP消費量が難点という声もちらほらと。ただ、そこは業務の規模に応じてDSPを増強できるのがProTools HDの強みでもあります。

そして、忘れてはならないのがProTools9からEuphonix EUCONプロトコルに正式対応したことです。AVIDがEuphonixを買収した時点でこの方向性は既定路線であったわけですが、それまではD-Control ESD-Command-ESICONシステム、C|24Command|8がProToolsを唯一フルコントロール可能な
コントロールサーフィスとして旧Digidesign時代から位置づけられ、MIDI情報を利用したHUIプアロトコルを採用するサードパーティー製品はフェイダー解像度等において不利とされてきました。そういった中登場したEuphonix MC ControlMC MixはLogic、Cubaseなど他の主要DAWのみならずFinal Cut Proのコントロールにも対応するなどクローズドな戦略を取ってきたAVID/Digidesignとは対局に位置し、それまでHUIプロトコルに頼らざるを得なかったコントロールサーフィスからのブレイクスルーとも言える存在でした。パッケージングはCommand|8と重なる部分はありますがCommand|8は既に登場から時間が経過しているため、現時点の基準で考えると力不足な感は否めません。今やProTools純正となったMC Control、MC Mixは映像が絡んでくる場面で力を発揮することは間違いないでしょう。

今やレコーディングスタジオ業界標準として不動の位置にあるProTools。
先に発表されたHDインターフェイス、EUCONとともに総合力で次なる一歩を踏み出したという印象です。



※サードパーティーのオーディオインターフェイスについてはAVIDから正式な動作保証が行われない模様です。